大人にこそおすすめしたい絵本。その一つが『アリババと40人のとうぞく -アラビアンナイトより-』という作品です。
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ストーリー
ペルシャのある街に住むアリババは、貧乏だけれど真面目で働き者。ある日、ロバを連れて近くの山で薪を拾っていたアリババは、40人の子分を従える盗賊の親分が呪文を唱えて洞窟の扉を開け、中に宝を運ばせているところを見かけます。
アリババは盗賊たちが去ったあとで洞窟に入り、金貨の袋をロバの背中に積めるだけ積んで家へ持ち帰ります。金貨の出所を秘密にしていたアリババでしたが、強欲で金持ちの兄・カシムに知られてしまいます。
洞穴の扉を開けるための呪文をアリババから無理やり聞き出したカシムはすぐに洞窟へ入り、宝の山を見て大喜びしますが、出るための呪文を忘れてしまい、帰ってきた盗賊たちによって殺されてしまいます。
帰ってこない兄を心配したアリババは、洞窟へ行って兄の亡骸を見つけ、金貨の袋と一緒に持ち帰ります。ところが、また金貨がなくなったことに気がついた盗賊の親分は、秘密を知る者が他にもいることに気づき、アリババを見つけ出して殺そうとせまってきます……。
作品について
本作品の原作である『アリババと40人のとうぞく』はイスラム世界に伝わる説話のひとつ。1704年にフランスの東洋学者アントワーヌ・ガランによって編集・出版された説話集『アラビアンナイト』(千夜一夜物語)全12巻の中の一編として登場し、世界的に知られました。
兄のハシムが盗賊たちによってバラバラに切り刻まれ、それをアリババが袋に入れて持ち帰り、女奴隷のマルジャーナが靴屋を呼んで縫い合わせるというスプラッターな展開は、子ども向けの絵本では真っ先に省かれる部分ですが、本作品は改変していません。
作者について
絵: ナルゲス・モハンマディ
ナルゲス・モハンマディさんはイランで人気の高い女性画家。20冊以上の作品を手掛け、児童書イラストレーター協会の会長も務めています。ブラティスラヴァ世界絵本原画展で「金のりんご賞」を受賞するなど、国際的にも高い評価を得ています。
日本語訳された他の作品に『ノホディとかいぶつ』があります。
著: 愛甲 恵子
再話・編集したのは翻訳家の愛甲 恵子さん。東京外国語大学大学院出身でペルシャ語のプロフェッショナル。イラン留学の経験があり、イランの絵本やイラストレーターを紹介する展覧会などを開催しています。
深掘り情報
ストーリーの中で一番活躍する最重要人物ともいえる、賢い召使い(訳によっては女奴隷)のマルジャーナ(モルジアナ、モルジャーナ とも)の名には”小さな真珠の粒”のような意味があります。アラブ・イスラム世界では奴隷を宝石・珊瑚・真珠・花などの名で呼ぶ風習があったそうです。
洞窟のシーンで必ず登場する”覗いている顔”はモハンマディさんの他の作品にも登場しており、イスラム教における神の象徴でもある”太陽”を顔に見立てているようにも思われますが・・・。
日本であれば”神様仏様は見ていますよ」みたいな感じなのでしょうけれど、偶像崇拝を禁じているイスラム圏の作品なので、神様以外の存在だと思われます。
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『アラビアンナイト』説話集はガランが入手したアラビア語の古写本「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」をフランス語訳して出版したもの。全12巻のうち古写本に書かれていたのは7巻までで、8巻以降は「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」とは別の物語や、シリア人のハンナ・ディヤーブから聞いた物話を編集・再話したものがまとめられています。
古写本「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」は子供向けに書かれたものではなく、かなりエロティックな表現も多かったため、ガランは訳するにあたりトーンを控えめにしています。
有名な『アリババと40人のとうぞく』や『アラジンと魔法のランプ』などは8巻以降に登場。本来の『アラビアンナイト』(千夜一夜物語)の一部ではなく、ガランによって編集された再話に分類されます。
関連グッズ・関連施設
作品の感想・口コミ
「ストーリーに新鮮味があるわけではないけれど、原作のアラビアンナイトと違ってやさしい語り口調で綴られているのがいい。読みやすく、心に残る。」
「洞窟のシーンにだけ登場する、覗き見ている顔が気になってしょうがない。」
「結構残酷な話だけれど、ほのぼのした絵がクッションになっているためか、さほどショッキングに感じない。」
作品情報
書名 | アリババと40人のとうぞく -アラビアンナイトより- |
作者等 | 原作:アラビアンナイト 絵:ナルゲス・モハンマディ 著:愛甲 恵子 |
出版社 | ほるぷ出版 |
発行年月 | 2021年01月 |